序-1 あなたが今この瞬間吸っている空気に、値段はついているだろうか
清潔な空気は今日もそこにある。水道の蛇口をひねれば水が出る。季節はおおむね予測できる範囲で巡り、土の上では作物が育つ。これらはあまりにも当然のこととして、私たちの意識の外側に置かれてきた。値段がついていないものは、存在していないも同然に扱われる。人間の社会とはそういうものである。
しかし考えてみれば、空気に値段がついていないことほど不思議なことはない。
経済学者ロバート・コスタンザらの研究チームは1997年、地球の生態系が人間に対して提供する「サービス」の経済的価値を試算した。森林による水の浄化、土壌の形成、花粉媒介、気候の調整、海洋による炭素吸収。これらを市場で取引可能な価格に換算すると、年間約33兆ドルにのぼると見積もられた。これは当時の世界のGNPの約二倍に相当する。地球は無償で、人間の経済全体を支えるだけの価値を毎年提供し続けている。にもかかわらず、その価値は経済の計算式の中に正式に組み込まれることがほとんどない。
無償で受け取れるものを、人間は当然と考える。当然と考えるものを、人間は守ろうとしない。
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